アートと経済は繋がるか?漫画家ヤマザキマリが語る アートと経済の関係

2017年7月7日(金)『モンテカルロギャラリー』オープニング記念として、スペシャルトークショー「人生を変えたギャラリー。」を開催いたしました。SNSをきっかけにアーティストとしての成功をつかんだ、ロンドン在住フランス人アーティスト、ルイ・ニコラ・ダーボンと対談したのは『テルマエ・ロマエ』でおなじみの漫画家ヤマザキマリ氏。物心ついたときからペンを握りしめ、言葉で表せないものは絵で表現してきたというお二人の、アートと人生と、ギャラリー、そして経済との関係性とは。

ヨーロッパで絵画は「自分の世界観」を他人に伝えるための大切なツール

-『モンテカルロギャラリー』のファーストインプレッションについてお聞かせください。

ヤマザキマリ(以下:ヤマザキ):モノトーンを基調としていてとてもシンプル。だからこそルイさんの大きな絵を、説得力をもって展示できている印象です。これからどんな面白い絵が飾られるのかという期待感をも醸し出しています。
オーナーがその絵に対しての思いをどのように演出しようとしているのかが一目で分かる場所というのは、ぐっと引き込まれますよね。ギャラリーそのものを、作品を見せるための作品、と解釈できるとも思います。

ルイ・ニコラ・ダーボン(以下:ルイ):世界中のあらゆるギャラリーの、素晴らしいところだけをギュッと凝縮したような空間。それでいて、パリの高級ブランド店を思い起こさせるエレガントさも兼ね備えていて、非常に驚きました。

-日本では「ギャラリー」はごく限られた人が訪れる、敷居の高いイメージの場所ですが、ヨーロッパではどのような位置づけなのでしょうか。

ヤマザキ:まず、ヨーロッパでの日常は絵画との距離が非常に近いです。
なぜなら、日本と違ってヨーロッパの人たちは週に何度も家に人を招く機会があり、部屋のインテリアを「人の目を意識してコーディネート」する必要があるんです。家主の個性やセンスが常にその空間に問われるわけですから、インテリアの一部として絵も重要な役割を担っています。と同時に、当然ながら自分の空間を好きになるための、ひとつのツールでもあります。
だから、買うつもりはなくても、つい散歩がてらギャラリーに立ち寄ってしまうことは多いです。ギャラリーで「この絵があの場所にあったらすごくいいかも」と思って帰ってきて、後日「どうしてもあの絵のことが忘れられない、やっぱり買いに行く」となることもしばしば。なんでしょうね、質の良い家具や絨毯のような位置づけに近いというか、非常に生活に密着した感じです。

芸術との距離を縮めるSNSの可能性

ルイ:私が現在住んでいるロンドンは、多様な文化が入り混じった街なのですが、ギャラリーひとつ取ってみても、入りやすいところもあれば、メイフェアにあるギャラリーのように非常に入りづらい場所もあります。でも本来、アートというものはすべての人のものであって、気軽に触れて、日常から解放されるということが大切です。
そういった意味では、近年ソーシャルメディアという存在がアートの敷居を低くしていると思います。私もインスタグラムを中心にポストしているのですが、ここ『モンテカルロギャラリー』の個展が開催されるまでも、展示する作品をスニークピークとしてインスタグラムで紹介しました。「このアートが好きだ」という感想や「ぜひ会場に観に行くからね」といったメッセージを直接いただいたりして、始まる前から大変盛り上がりました。

ヤマザキ:ソーシャルメディアを含めて、現在、足を踏み入れるきっかけは、人それぞれですが、思い切ってギャラリーに入ってみて、そこに、自分が言葉にしたいものが絵で表現されているものがあるかもしれないし、美術館に陳列されている高尚な名画を鑑賞するのと違って、もっとダイレクトに自分の中に入ってくる作品があるかもしれない。美術品との距離を縮めてくれる場所ですよね。
ギャラリーには運が良ければアーティストの方が在廊していてお話をする機会があったりしますが、作品だけではなく、それを生んだ表現者とコミュニケーションを交わすことのできる、特異な場でもあるのかなと思っています。

人生を変えたギャラリーは「多くの教養を与えてくれた(ヤマザキ氏)」、
「アーティストとしての可能性を広げてくれた(ルイ)」

―これまで、自身の人生を変えたギャラリー、印象に強く残っているギャラリーはありますか。

ヤマザキ:今はなき『ガレリア・ウプパ』というフィレンツェのギャラリーです。アカデミアの貧乏学生をしていた頃、通りすがりに見つけた場所なのですが、そこはギャラリーでありながら、地元の小説家や芸術家の人たちの意見交換や勉強会の場であったり、時には貧乏作家同士でのそれぞれの書籍やお金の貸し借りの場となったり、昔のモンパルナスのような「芸術家のための触発の場」でした。私はこのギャラリーに通うようになって、絵画だけでなく、映画や文学といった他の表現媒体や、哲学、歴史、政治など社会全体のことをそこにいる人たちから学ぶことができ、さまざまなことに対しての食指がのびていくようになりました。

ルイ:『グラフィックギャラリー』が自分の人生を目まぐるしく変えました。現在アトリエを構えているノッティングヒルの、主にストリートアートを扱うギャラリーです。
5年前、Facebookにポストした私の作品をこのギャラリーの方が見てくださり、急遽グループ展に作品を3点出展することになったのですが、これがきっかけで、ロンドンやスイス、モロッコなどでも展示する機会を得ました。
その後、この『グラフィックギャラリー』がパートナーシップを組んでいるシンガポールのギャラリーにも展示したのですが、このギャラリーが私の知らない間に、香港の展示会でも作品を紹介してくれていたようで、そこにモンテカルロギャラリーのディレクターがたまたま訪れたことで、今日のような日が実現しました。まさか東京のアートギャラリーで私の個展が開催されることになるとは思いもよりませんでした。

「高級な鞄を買うかわりに、お気に入りの絵を一枚」がアートに近づく第一歩

―"アート"をうまく自分のライフスタイルに取り入れるにはどうしたらいいでしょうか。

ヤマザキ:まずは気軽に「絵を買ってもらいたい」ですね。高い鞄を買う代わりに、いい絵を一つ、とかね。お気に入りの絵をひとつ見つけて、それを飾るということが、自分の空間に奥行きと幅を与えてくれることになり、人生そのものの豊かさにもつながりますので。
アートという言葉自体が敷居を高くしてしまっている感じがします。これがもっと日常的なもの、例えば漫画だったらみんな気軽に手に取るじゃないですか。それで普通に絵と接して、何かを感じ取ったりしているじゃないですか。それと同じように付き合っていけばいいのではないのではないかと思います。作品に付けられるそれぞれの値段もポケットマネーで調達できるくらいお手軽になれば、もっともっとその存在もポピュラーなものになるのでしょうけどね。

ルイ:インスタグラムのフォロワーと話をしていても、やはりアートは高くて買えないという人がいる。でも多くの人にアートに触れてほしい、という思いからリミテッドエディションをはじめました。先ほどヤマザキさんがおっしゃっていたように、例えばバッグを買う代わりに、それと同じ価格帯でアートを購入することができます。仕事から帰ってきて、ベッドルームやリビングルームに自分の好きなアートがあったら……想像するだけで毎日が楽しいですよね。こういった気軽な雰囲気で買ってみるのがライフスタイルに取り入れる、第一歩かと。

アートの原点は「欲求」 広めるために必要なのは「経済力」と「サービス精神」

ヤマザキ:原始時代から、洞窟に狩猟で狩りたい動物を描いていた歴史のとおり、アートは言葉を話す、ごはんを食べるなどと同様に、人間の特性、コミュニケーションツールとしてなくてはならないものだと思います。私自身も「なぜテルマエ・ロマエという漫画をお描きになったのですか?」とよく聞かれますが、それは欧州での暮らしが長くて、浴槽のある家になかなか住むことができず、いつも抱いていた「お風呂にゆっくり浸かりたい!」という個人的な欲求があのような漫画につながったんです。
一方で、アートというのは、経済力というバックグラウンドがないと動かないし、人にも伝わっていかない。アーティスト側も「自分の主張を聞いて」ばかりではなくて、エンターテイメント性を意識して発信していかないといけないと今なら思います。若い時は頭が硬くて「芸術は鑑賞者に媚びてはいけない!」なんて思っていましたけど、作る側も見る方も、その作品があることによって幅広い意味で楽しめる、気持ちが豊かになる、ということが一番なのではないでしょうか。

ルイ:そうですね、自分の作品でエモーショナルが生まれたら嬉しいですし、好きな作品はもちろん、どうしても楽しめない嫌いなものがあればそれも率直に話してほしいです。

ヤマザキ:こうして『モンテカルロギャラリー』にしばらくいて、自分が油絵を学んでいた、画家になることを志していたなということを思い出しているうちに、一枚絵をまた描きたいなという気持ちがむくむくと募ってきました。やっぱりギャラリーというのは、マジカルな空間ですよね。
ぜひ周りの方に「アートは敷居の高いものではない」ということを知らせつつ、モンテカルロギャラリーにお散歩がてら来ていただいて、「ルイの絵がほしい」という人をどんどん増やしてください。

ヤマザキマリ氏プロフィール

漫画家。1967年4月20日東京都出身。1984年に渡伊、フィレンツェの国立アカデミア美術学院入学。美術史・油絵を専攻。1997年に漫画家としてデビュー。比較文学を研究するイタリア人研究者との結婚を機に、シリア、ポルトガル、アメリカを経て現在はイタリア在住。
2010年古代ローマを舞台にした漫画「テルマエ・ロマエ」で第3回漫画大賞受賞。第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。世界各国で翻訳出版される。著書に「ルミとマヤとその周辺」「ジャコモ・フォスカリ」「スティーブ・ジョブズ」等。
文筆作品では、「テルマエ戦記」「望遠ニッポン見聞録」「男性論」「国境のない生き方」「偏愛ルネサンス美術論」等。
現在は、新潮45で「プリニウス」を(とり・みきと共著)、 「Gli Artigiani ルネッサンス画家職人伝」連載中。
平成27年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
【ヤマザキマリ】公式WEBサイト

ルイ・ニコラ・ダーボンプロフィール

フランス・パリ出身。現在はロンドンのノッティングヒルに拠点を置くアーティスト。メンズファッションとライフスタイルのインフルエンサーであり、芸術とファッションという二つのジャンルを融合し、世界中の紳士たちに影響を与え続けている。
現在18万のフォロワーを持ち、インスタグラムで最もスタイリッシュな男性と評価されており、ファッショニスタという一面もある一方、ポップな肖像画やラグジュアリーブランドをモチーフにした作品を描くアーティストとしても活躍。
アートフェアの頂点であるアートバーゼル2016香港に参加し、イギリス、アメリカ、モロッコ、フランス、スイスにて個展やグループ展を行っている。また、商業施設や高級ホテルの壁画制作など、特別なデザインやアートプロジェクトも手がける。世界有数のファッションブランドとコラボレーションし、オーダーメイドのイラストやデジタルキャンペーンを行うなど、多方面にわたり精力的に活動中。満を持してモンテカルロギャラリーとの独占販売契約を締結し、堂々デビュー 。
【Louis-Nicolas DARBON】公式WEBサイト

『モンテカルロギャラリー』店舗概要

住所:東京都港区赤坂9-6-26 フォンテ六本木1階
電話:03-6804-1410 営業時間:11時~20時 定休日 月曜日(祝日の場合営業)
【Monte Carlo Gallery】公式WEBサイト